――75か月にわたる継続的実践から見えた兆し
西九州大学リハビリテーション学部長・教授 小浦誠吾
高齢社会の進行とともに、認知症への関心と予防の必要性はますます高まっています。私たちが実施した臨床研究では、まだ認知症と診断されていないものの、加齢に伴う「物忘れ」などの初期症状が見られる方々に対して、植物療法を取り入れた継続的なハンドケアがどのような影響をもたらすかを検証しました。
研究には14名の参加者を募り、通常の機能訓練に加えて、ソフィアメソッドのハンドケアセラピーの指導を受けたリハビリテーション学部の教員と作業療法士(OT)が、週1回の頻度で継続的に施術を行いました。この取り組みは、実に75か月――約6年半という長期にわたり行われたものです。
使用したオイルは、ラベンダー浸出油(ソフィアトリートメントオイル ラベンダー)と、脳の活性化や気分の高揚を期待できるローズマリーとレモンの精油をブレンドした「ソフィアトリートメントオイル 活(かつ)」であり、これらを用いたソフィアメソッドの施術が毎週実施されました。
評価は3か月ごとに実施し、MMSE(Mini-Mental State Examination)やMoCA-J(Montreal Cognitive Assessment – Japanese version)を用いた認知機能の測定に加え、日常生活の自立度(老研式活動能力指標)および気分状態(GDS:老年期うつスケール)を測定しました。
結果として、ハンドケアを受けた多くの方々において、ほとんどの評価項目の平均値が上昇し、特に注目すべきは日常生活動作(IADL)の改善が顕著であったことです。これは、参加者の生活の中でできることが増え、行動範囲の拡大、ひいては生活の質の向上につながる可能性を示唆しています。
この研究は、ハンドケアが単に心地よさやリラックス効果を提供するだけでなく、継続的な「触れるケア」と植物の力が、認知機能の維持・改善を支える可能性があることを示すものです。
今後も、ハンドケアと植物療法との融合による新しいケアのあり方を追究しながら、より多くの高齢者やそのご家族、ケアに関わる専門職の方々に、この取り組みが広がっていくことを願ってやみません。