一般社団法人 日本フィトセラピー協会 代表理事 池田明子
新型コロナウイルスの影響により、私たちの生活は大きく変化し、人とのつながりの希薄化、ストレス、孤独感が問題視されるようになりました。
特に高齢者や医療従事者においては、心身への負担が深刻化しており、そのケアの必要性が高まっています。
こうした中で、注目を集めているのが植物の力を活用した「ハンドケアセラピー(HCT)」です。自然由来のハーブオイルを用いたハンドマッサージによって、自律神経や心理状態に良い影響を与えることが明らかになっています。
今回は、ソフィアフィトセラピーカレッジと西九州大学による共同研究「Effects of the Hand Care Therapy that Used Natural Herb Oil on Autonomic Nervous System against All People Concerned(2021年)」の内容をもとに、ハンドケアセラピーが与える影響についてご紹介します。
ハンドケアセラピーの研究概要
研究は、作業療法学科に所属する17名の学生を対象に実施されました。学生たちは、認定ハンドケアセラピストとして高齢者施設で実際にハンドケアを実践し、その前後で心理的・生理的な変化を測定しました。
使用されたオイルは、天然のハーブ精油。心地よい香りと穏やかな手技により、受け手だけでなく施術者の心身にも作用することが目的です。
主観的評価:心の変化を実感
研究では、感情の変化を「POMS(気分プロフィール検査)」を用いて数値化しました。特に注目すべきは、怒り(A-H)、緊張(T-A)、混乱(C)といったネガティブな感情が有意に減少した点です。
さらに、全体的な気分のバランスを表す「TMDスコア(Total Mood Disturbance)」も減少し、施術後には気分がより安定した状態に変化したことがわかりました。
つまり、ハンドケアを行うことで、施術者自身がリラックスし、感情の安定を得られることが確認されたのです。
客観的評価:自律神経へのポジティブな影響
心身の状態を客観的に測定するために、心電図(ECG)を用いて**自律神経活動(交感神経・副交感神経)**を分析しました。
結果として、交感神経(緊張、怒りなどのストレス反応)は抑制され、副交感神経(リラックスや幸福感、癒しの感情の反応)が活性化されており、HCTが「癒し」の効果をもたらしていることが科学的に裏付けられました。
また、血流量の増加(BVIの上昇)も確認され、末梢循環が良好になる=身体も温まり、リラックスできることが示されました。
HCTの効果は、施術する側にも
一般的にセラピーというと「受け手」の効果が注目されがちですが、この研究が示したのは、施術を行う側=学生たち自身のメンタルケアにも効果があるという点です。
実際、学生たちは「ありがとう」と感謝されることで自己肯定感が高まり、役割や存在価値を再確認できたと感じています。
このことから、ハンドケアセラピーは**「癒しを与えると同時に、自分も癒される」**双方向のケアであるといえるでしょう。
コロナ禍における新しいコミュニケーションの形
新型コロナによる社会的孤立や認知機能低下が懸念される中で、HCTのような心と体に寄り添う手技は、対面でのコミュニケーション手段として非常に有効です。
実際に、HCTの普及によって「フレイル(虚弱)予防」や「高齢者の認知症予防」、さらには「医療者のメンタルサポート」にも寄与する可能性があると報告されています。
まとめ
ハンドケアセラピーは、単なるリラクゼーション技術にとどまらず、自律神経のバランスを整え、感情の安定を促進し、心地よい人間関係を築くためのツールです。
これからの高齢社会、そして心のケアが必要とされる時代において、HCTは非常に有望なセラピーといえるでしょう。
ソフィアフィトセラピーカレッジでは、このような研究成果を基に、植物療法を日常に活かす学びを提供しています。ぜひ、あなたもハンドケアセラピーを通じて“癒しの力”を体験してみませんか?